16度の妙味

 

 

私は腰掛けている翁先生の右斜め前で、右足首を軽く内と外にねじってみた。
翁先生はやは り

   「外側にねじられるとここの膝に痛みがくるなあ」

と膝の内側を指さした。
私は

「ここで押さえてますから、先生つま先を内側にねじってみてください」

と外側23度にねじった位置で止め、抵抗した。

翁先生は内にねじる力を入れ、もう全身が連動して動いている。
このときの角度は18度の位置。
そのまま動いて、抵抗角度が16度になった瞬間、私はなぜか不思議な感覚を覚えた。

簡単に表現すれば、自分も気持ちがいい感じになる。
ただそれだけなのだが、なぜこの16度でそうなったのかを、私の手と目から入る情報を整理して分析してみたい。

私の目はボーッとしながら翁先生の全体を見ていた。
翁先生の動きは見たことのある人はわかると思うのだが、見ていてもどこをどう動かしているのかわからない。
だから言葉で説明するのが大変むずかしい。

でも、あえて表現すれば、

   ゴニョッ、モゾゾッ、クニャヤー、ヒッ。

てな感覚かなぁ。
見た目の動きはこんな感じで、顔はイイ顔だった。

やっぱり、文章だけでは限界がある。
ぜったいまるさんの絵がいるわ。

 

つぎに、手に受ける感覚は、もちろん視覚からの情報がミックスされてくるのだが、足が動くにつれて抵抗しながら動いてゆくと、なんとなく「フッ」と止めたくなる、「ココダッ」と感じるポイントがあるのだ。

そこで、止めて抵抗しながら私は、

「なんか、気持ちよさって手に伝わってきてわかるものなんですね」

と軽い気持ちでそう言った。
するとイキナリ

   「バシッ!」

と翁先生はおもいっきり私の左背中をひっぱたいた。

私はびっくりして翁先生の顔を見た。
また、しかられたのだと一瞬思ったが、そうではないことはすぐにわかった。

ニコッと笑っていたからだ。

 



そして翁先生は

   「それがわかればプロだ!」

と上機嫌な顔で励ましてくれた。

背中はすごく痛くてびっくりしたが、とてもうれしかった。

その後、翁先生の膝がどうなったのかは、まったく記憶にない。

なんだこれは。

おわり  

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