OLアリーの体験(顎関節症)2 コン

五月九日、アリーの治療は顎関節の周りのヒフにやさしく話かけることから始まった。

歯ぐき痛から頭痛そして右足の苦痛があるという。
今までの経過からなのか、なんとなくそうしたのか、はっきりした理由は見つからないが、アゴ周辺のヒフからなんとかしたかった。


私はアリーの頭の方に腰かけ、2、3、4指の腹で両側をはさむように軽く触れ、顎関節の少し下をそっと触診した。
左は筋肉とヒフがくっついているようでヒフが動きにくくなっていて、いくらか硬い感じだった。
そんな感じを指先は感じ取り、しばらく静かにただ触れているだけの静寂な時間を味わう。

しだいに私の指先がアゴから何らかの情報を感じ受け、そのメッセージに反応するかのように微妙に振動をはじめる。
無自覚というか無意識にそうなるのである。
反面、私の意思は、ヒフを下とか上に動かしてみたい感覚にゆれる。
これは、筋肉のこりがスッと一瞬に緩む方向にヒフを動かすというか、微妙にいろいろ動かしていると、たまたまある方向に動かしたときに、結果としてひとりでに緩んでしまうということがよくあるからだ。
ヒフを動かすときは数ミリだと思うが、無意識に任せて動かさないこともある。
動かさないと言っても、無意識に動いているのだからなにがなんだかわからなくなる。
ヒフをちょっとずらすと中の筋肉がスッとほぐれる感じになるずらし方が見つかる。
こりがやわらかくなったと感じたとき、どんな感じか聞いてみた。

アリーは「頭が重いのがスッと消えた」という。
どうなっているのかは、わからないが、そうなってしまった。

その人なりのポイントに気持ちよさが与えられると、そこ以外の部分にも影響し、どこかがスーッと軽くなってきたり、勝手にどこかがひとりでに動き出して治ってしまう人がいるのだ。
アリーのからだはこの時点では勝手には動かなかった。
というか動きか微細で自覚できなかったと言った方が正しいのかも知れない。

私は右足首の調整。じゃなくて、調整のためのお手伝いにとりかかる。
仰向けのアリーの右膝下に私は左膝を置き、足首を両手で包み込むように軽く固定する。
たぶん、見ているとただ包み込んでいるだけで何をしているのかわからないだろう。
本当は気持ちがよければ、それだけで十分なのだが、あえて感覚を表現してみよう。
両手で足首を包んでいると、ものすごく怪しい感覚が手に伝わってくる。
ドキッ!。
表情でたとえると、苦しんでいた顔がフッと安らかな顔になる感覚が手にじわじわーっと伝わってくるのだ。
もちろん実際の表情もそうなるのだが・・・。

私の手は手の平全体で、足首からの情報をキャッチし、固まっているのが緩む方向に、足首のヒフ、筋肉、関節に働きかけ(お話)をしているのだ。
秒単位で。

そのときの意識は、何も考えないでやるのだ。
などというとまた怪しい感じになるので、意識をボーッとしてやるという表現にする。
あまり変わりないか。
でもそんな感覚がいい。
特別、気合を入れたり、念じたりはしない。
気持ちのよさを確認するだけである。

「どんな感じで気持ちがいい?」などと聞く。
考えたり困ったりしていたが、アリーはの答えは「気持ちがいい」それだけだった。

その後、なぜか突然の雨。ではなくて右膝ウラが気になって押さえたくなった。
一瞬にして、グリッとコリをピッと押さえる見事な私。
さすがプロである。

「イッターーイ」とアリーのからだがビビッと逃げ動き、これで膝裏のコリがきれいに消えた。
アリーは一気に目が覚めた。
と思ったら、またそののまま寝てしまった。

実は、すぐに起き上がるのがイヤそうだったので「そのままでいいよ」などと言って、やさしい私は椅子に腰掛けて起きるのを待っていたのだ。

ここだけの話だが、アリーのそのときの寝姿は、とても嫁入り前の女性とは思えない見事な格好であった。
だが、その表情は、こどもにでも返ったような安らかなイイ顔だった。
ような気がする。

しばらくして、立って歩いてもらったら、ふくらはぎが痛いというので、ベットに腰かけてもらい、アゴを診ることになった。
私はアリーの左後ろから、左の指で左顎関節の下のヒフをそっと押さえ、頭が安定するように、右手で首の後ろを支えた。
何かをキャッチしたのか、私のアゴに当てた手は微妙に振動しはじめた。
私はその振動を止めようとも、動かそうともせずに、ただそれを味わいながら、そのまま当て続けた。
すると、アリーのからだが変化しだしたのだ。
顎の筋肉が緩みだしたら、首が動き出した。
私は右手で頭と首を支え抵抗とした。
私の右手にもたれかかるように動くアリーの頭から全身。

アリーは自分のふくらはぎが勝手にピクピク動きだし、気持ちがいいといいながら、その妙味を楽しんでいるようだった。
表情からもきもちよさが手に取るようにわかった。
手からもそれが伝わってくる。
だから手に取るようにわかるというのか。
納得。

「もういいみたいです」と言うので私は静かに手を離した。
アリーは、「どうして先生にやられると気持ちがいいのに、自分でやるとわっかんないのかなぁ?」とかいいながら、自分でなにげなく顎のカワにスッと触れた。
そうしたら、足の指が動き出して気持ちよくなるといって大騒ぎだ。
びっくりしたアリーは、これを期にアゴのカワの操体が上手にできるようになったのであった。?

「ウソかホントかためしてみるヤジウマ根性があればいいんだ」。
翁先生の十八番が空から聞こえた。

 

[原文 No.1822 - 2002/05/20 00:00]

 

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